
■陽気な新メンバー
「国民の映画」の幕が開いた。三年ぶりの再演である。初演は開幕直後に東日本大震災が起きたこともあり、僕にとっては忘れられない作品だ。
今回は、出演者のうち二人が新参加だ。渡辺徹さんは、僕と同い年。「太陽にほえろ!」の頃から親近感を抱いていた。近年は、バラエティータレントのイメージが強いが、一方で、舞台俳優としても着実に力をつけている。本来は文学座の役者さんなのだ。いつか一緒に仕事がしたいと、ずっと思っていた。
天性の陽気さは、俳優渡辺徹の一番の武器だ。彼が舞台に登場すると、それだけで空気が変わる。そんな役者はあまりいない。いつも彼だけ専用のライトが当たっているかのように、輝いている。ただでさえ明るいのに、身体がでかいから、さらにそのワット数は増す。もちろん明るいだけではない。劇団で鍛えられた技術もある。
なにより嬉(うれ)しかったのは、僕と「共通言語」を持っていたこと。この台詞(せりふ)は、こんな風に言って欲しいとリクエストすると、すぐに演技に反映してくれる。普通は、何度か稽古を繰り返すうちに徐々に出来てくるものだが、渡辺さんは、瞬時に理解してくれる。「この人は自分と同じ感性を持っている」と思ったのは、西田敏行さん以来か。聞いてみたら、丑年(うしどし)でA型で一人っ子と、僕とまったく同じ。そういえば、僕も青春時代、榊原郁恵さんのファンでした。
秋元才加さんは、以前テレビのバラエティー番組に出ている姿を見て、「この人いいな」と思った。積極的に前へ出ようとしない姿勢は、テレビの世界ではむしろマイナスなのだが、彼女の場合は、前に出なくても目を引くオーラがある。そして控えめなのに、いざというときの思い切りの良さ。人前でゴリラの顔マネを本気でやる女性を初めて見た(ただし、リアルすぎて若干引いた)。動きに切れがあり、なにしろ立ち姿が奇麗。絶対に彼女は舞台向きだと思っていた。
実際にお会いしてみると、とても真面目でひたむきな方。どんな注文にも、即座に対応する。これは大事なことで、出来る出来ないは関係なく、まずやってみることが、稽古場では大切なのだ。お稽古なのだから、失敗していいのである。恥をかいていいのである。
それでも羞恥(しゅうち)心やプライドが邪魔をして、恥をかきたくないと思う人も中にはいる。だが秋元さんは違った。彼女は、「そこでバナナを丸ごと一口で食べてみて下さい」と言えば、迷わずやってくれる人だ。そして見事に食べてくれるはずである(ちなみに彼女は、かつて一分間でバナナを二本半食べたことがあるという)。
自分の出番が終わると、秋元さんは席に戻って、なにやら必死にメモを取る。「何を書いているんですか」と聞いたら、演技をしながら思ったことや、発見したことを、忘れないうちに書き留めているらしい。机の上に広がった無数のメモが、彼女の仕事に対する真摯(しんし)な姿勢を物語っている。ただし、あまり整理されて並んでいるとは言いがたい。結構、大雑把か。
初演メンバーについては、次回。(朝日新聞デジタルより)