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Channel: 秋元才加ちゃんを応援するあたしの日常
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群像劇の傑作! 三谷幸喜『国民の映画』開幕リポート

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2011年3月、開幕中に東日本大震災が起きた後も「ショー・マスト・ゴー・オン」の信念で上演を続けた三谷幸喜 作・演出『国民の映画』。あれから3年……数々の演劇賞に輝いた本作が新たなキャストを迎え、パワーアップして劇場に帰って来ました! PARCO劇場40周年記念公演のラストを飾る本作を、舞台写真と共に演劇ガイドがレビュー形式でリポートします。

舞台は1940年代のベルリン 政治に翻弄される映画人と
政治に取り憑かれたナチス高官たちの物語

◆あらすじ
1940年代のドイツ・ベルリン。ヒトラー内閣がプロパガンダの為に作った宣伝省の初代大臣であるパウル・ゲッペルズ。彼は全ての芸術とメディアを監視検閲する権利を与えられていた。ある日ゲッペルズは映画関係者たちを自宅に呼んでホームパーティーを開く。パーティーにやってきた映画人たちの前でゲッペルズは彼らを招いた本当の理由を発表する。彼は最高のスタッフとキャストを使い、自分の理想の映画……ドイツ全国民が誇れる「国民の映画」を作ろうと考えていたのだった。

登場人物は12名(+ピアノ演奏・荻野清子)。舞台転換は一切なく、実際の時間の流れと物語の時間の経過が同じというスタイルで進行していきます。

まずはゲッペルズ役の小日向文世さんがとにかく素晴らしい! 映画を心から愛し、その映画に最後まで愛して貰えなかった男の悲哀と政治家としての冷酷さ、女性にだらしない一面、滲み出る器の小ささ等、人間と云うのはこんなにも多面的で複雑な生き物であるのだと突きつけられる緻密な演技に心が震えます。

そのゲッペルズが”月”だとしたら、”太陽”のような存在のゲーリングを演じる渡辺徹さん。三谷作品には初参加ですが、現場のムードメーカー的な存在になっているという普段のキャラクター通り、登場するだけで舞台上の空気がぱぁーっと明るくなる雰囲気がとても魅力的。(勿論、ゲーリングも笑顔の裏に色々と問題を抱えている訳ですが……。)

同じく三谷作品初参加、本作では新進女優のエルザを演じる元AKB48の秋元才加さん。初演で同役を演じた吉田羊さんが常に肚に一物を抱えている野心満々の人物像を作っていたのに比べると、ある種その場その場の雰囲気で行動する天然の人という感じで、とても自然に観る事が出来ました。華もあり、舞台映えする姿が目を引きます。

ガイドは震災の約2週間後に初演の『国民の映画』を観ているのですが、その時と比べ、個人的に「ん、変わった?」と感じるポイントが3つありました。

1つ目は上に書いたエルザのキャラクター。2つ目はゲッペルズの家に上がり込み何かを探る、ヒトラー内閣の親衛隊長・ヒムラー(段田安則)がより明確&印象的に「害虫と言ってもそれは人間の都合。虫に罪はない。」というモードを前面に押し出していたこと。これにより、後半の展開に深みが増したと感じました。そして3つ目は国民的女優であるツァラ・レアンダー(シルビア・グラブ)の二幕の演技。彼女の何気ない一言から物語は急展開を迎える訳ですが、初演ではその言葉によって招いた事態に対し、比較的あっさりしている様に見えたツァラが、今回の再演ではその事の重みをしっかり受け止め、終盤の行動に繋げていたように感じられ、全ての流れがより深い場所にすとんと落ちて来ました。

初演に続き今回の再演でもゲッペルズの屋敷の執事・フリッツを演じる小林隆さん。三谷幸喜さん主宰の「東京サンシャインボーイズ」出身という事もあり、三谷作品には舞台、映像共に数多く出演なさっている小林さんですが、フリッツという役は本当にハマり役だと思います。台詞のニュアンスや表情は勿論、執事としての細かな動きや息遣いも全て繊細に表現していて、この物語の外でもフリッツという人間がどういう人生を歩んできたのかがふっと見えるようでした。小林さんがこの役に瑞々しい命を吹き込んだことが、本作が成功している大きな要因の1つではないでしょうか。

演劇に必要なすべての要素が幸福な化学反応を起こしている群像劇の傑作

常人には理解できない数式のように緻密に計算され尽くした戯曲と、一瞬たりとも気を抜けない繊細な演出。それを体現する俳優たちは自分の役を完璧に演じつつ、他の共演者と濃密なキャッチボールを続けていく。まるで不安定なつり橋の上で”落としたら終了”のジェンガを続けているかのようなえも言われぬ緊張感。と、その緊張感を壊すように要所要所で挟まれる「笑い」。

たった一晩……約3時間のホームパーティーの始まる前と終った後で、そこにいる全員の運命が大きく変わってしまう。そして静かでありながらとても強い印象を残すあのラストシーン。本作『国民の映画』は決して全てがクリアになり、明るい気持ちだけで劇場を後に出来るというタイプの作品ではありませんが、ガイドはこの10年を代表する舞台の1本だと感じました。

人間が持つ多面性をここまで明確に提示し、ある種の残酷さを目の前に突き付けられているのに胸の中には暖かく小さな炎もちゃんと息づいている。カーテンコールで一瞬だけ再現される、皆が幸せだった瞬間は、それが崩れた後に見せられると何とも言えない切なさを感じます。正に三谷作品の真骨頂。

この舞台の初演は2011年3月。被災地の甚大な被害を思えば当然の事ですが、3.11後、首都圏の劇場もそれまでとは状況が一変しました。予定していた公演を中止するカンパニー、”劇場の灯りを消してはいけない”と敢えて上演を続けた集団……一時期は電車の本数も減り、”節電”の合言葉と共に街や駅も暗くなって、劇場が使う電気の使用量に対して議論が起きた事もありました。そしてあの時、舞台に関わる誰もが考えた「演劇に出来る事って一体何だろう」という大きな宿題の答えは未だ明確になっていないように思います。

三谷幸喜 作・演出『国民の映画』再演。
実はエンターテイメントでもある演劇に対して「~べき」という言葉はあまり使いたくないのですが、やはりこの作品は「今、この時代に観るべき舞台」として沢山の方に劇場で体感して頂きたいと感じています。この作品はあなたの人生の宿題を解く1つの鍵になるかもしれません。

◆『国民の映画』
2014年2月8日 (土) ~2014年3月9日 (日)  PARCO劇場
作・演出 三谷幸喜

出演 小日向文世 段田安則 渡辺徹 吉田羊シルビア・グラブ 新妻聖子
今井朋彦 小林隆平岳大 秋元才加 小林勝也 風間杜夫

大阪、愛知、福岡公演あり  →公式HP(AllAbout演劇・コンサートより)



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